非日常感をください
先週末、友人とドライブに出た。
といっても、目的地そのものより、車内の雑談が
主役みたいなものだ。
あいにく秋雨前線が停滞していて、
空はどんよりと曇っている。
これでは景色を眺めながらのドライブ
というわけにもいかない。
さて、どうしたものか。
相談した結果、
雨の日の強い味方である大型ショッピングモール、
ららぽーと磐田へ向かうことになった。
せっかくの遠出だ。買いたいものもあった。
部屋で育てているガジュマルの土が、
最近どうにも痩せてきていたのだ。
根は露出気味になり、葉も少しずつ落ち始めている。
このまま放置するのは、あまりよくない。
少し前にホームセンターも覗いてみたのだが、
売られている土はどれも立派すぎた。
一鉢のために買うには、少々大袈裟である。
調べてみると、100円ショップにも園芸用品があるらしい。
ならば今回は、それで十分だろう。
そんな目的を抱えて、私たちはららぽーとへ向かった。
しかし、私にとってショッピングモールの魅力は
買い物だけではない。
子供だけでなく、
大人にとっても遊園地に等しいと思っている。
世の中には、モール嫌いの人もいるらしい。
だが私は好きでたまらない。
本屋もあれば雑貨屋もある。
腹が減れば食事もできるし、疲れたら椅子もある。
特に欲しいものがなくても、歩いているだけで、
それなりに楽しい。
到着した頃には、ちょうど昼時になっていた。
「昼食どうするか?」
普段なら、店外へ出て
回転寿司あたりへ向かうところだ。
だが、この日は少し気分を変えたかった。
飲食フロアを歩きながら一通り見て回る。
しかし、どこも決め手に欠ける。
そんな時、ふとマクドナルドの前を通りかかった。
そういえば、最後にマクドへ来たのはいつだっただろう。
思い出せないほど来ていない。
記憶を辿ってみても、十年近くは経っている気がする。
その時も、自分から進んで入ったというより、
誰かに誘われてだったはずだ。
私は立ち止まり、友人にこう言った。
「非日常感をください」
私にとっての非日常とは、
このマクドナルドだったのである。
久しぶりのマクドは、
思っていた以上に様変わりしていた。
まず、注文方法がわからない。
タッチパネルを前にして、
軽く時代に置いていかれた気分になる。
幸い、そのあたりは友人が慣れていた。
どうやら、チーズ月見と炙り牛すき焼き風月見の
ペア向けセットがあるらしい。
せっかくだから、それにしてみた。
期待値は、それほど高くなかった。
ところが、これが思いのほか美味しい。
すき焼き風の甘辛い味付けと
月見の組み合わせは悪くない。
チキンナゲット用に選んだ期間限定の
「黄金の卵タルタルソース」も当たりだった。
試しにポテトを浸してみる。
これもなかなか良いアンバイである。
非日常ついでの限定品選択は、大正解だった。
そういえば、こうして友人と向かい合って、
バーガーをあんぐりと口を開けて
食べている自分を思うと、少しおかしくなる。
昔から、人と一緒に食事をすることには
ひどく躊躇したものだ。
特に女性と向かい合うとなると、恐怖に等しかった。
それが今では、目の前の友人と
くだらない話をしながらバーガーを頬張っている。
何を食べるかよりも、どう食べているか。
そんなところにも、昔とは違う自分がいるらしい。
些細な変化も含めて、
目の前の時間が心地よかった。
食後、ようやく本来の目的を思い出した。
ガジュマルの土である。
100円ショップへ向かう。
目当ての観葉植物用の土は、あっさり見つかった。
ホームセンターの大きすぎる袋とは違い、
実に手頃なサイズだ。
「話を盛る人には用心したいが、
土を盛るのはガジュマルのためになる」
そんなことを思いつつ、無事に土を確保した。
そして、本屋へ向かった。
私はショッピングモールの中でも、本屋が特に好きだ。
何かを買うつもりがなくても、つい足が向いてしまう。
店内をぶらぶら歩きながら、
「この本屋、
ヌードポーズ集がちゃんと立ち読みできるから
穴場なんだよな」
と、身も蓋もない話をする。
あの手の本は絵描き向けの資料集なのだが、
他の店だとビニールで閉じられていることが多い。
中身を見て選びたいので、
立ち読みできる店は案外ありがたい。
しかも、その棚のあたりは人通りも少なく、
妙に落ち着く。
青年漫画誌の棚を眺める。
表紙にはコスプレイヤーたちが
ずらりと並んでいた。
最近はグラビアというより、
コスプレ写真集の延長みたいな表紙も多い。
どうにもときめかない。
「今回は全員不合格だな」
実に好き勝手なことを言う。
「厳しいな」
と友人は笑う。
「なんというか、
みんな同じ方向向いてる感じなんだよな」
そう言いながら、
次の棚へ移動する。
文字にすると、実に品がない。
だが、そういうどうでもいい話ができる相手というのは、
案外貴重なものだ。
本屋を出たあと、CDショップにも久しぶりに入ってみた。
昔はもう少し、ジャンルの違うものが
ほどよく並んでいた気がする。
しかし、今のラインナップはどうも少し違う。
店内を眺めながら、私は友人に言った。
「なんかメロンブックスの店内みたいじゃん」
そんなことを言いながら、またしばらく店内を歩く。
窓に目線を移すと、
いつの間にか、外は雨が強く降っていた。
ガジュマルの土を買うために出かけたはずだった。
それなのに、今思い返してまず浮かぶのは、
月見バーガーの味。
本屋での馬鹿話。
CDショップでのくだらない発言。
肝心の土のことは、
その次くらいにしか出てこない。
まあ、それでいいのだと思う。
土はガジュマルのためになった。
そして雑談は、私のためになった。
こういう一日も、案外悪くない。
ちなみに、9月のガジュマルは、
土を全部入れ替えるよりも、
少々盛るくらいにしたほうがいいらしい。
これからの季節に向けて、
全部入れ替えるのは木全体への負担になるのだとか。
今回の私も、どうやら最初から最後まで、
「盛る」
くらいがちょうどよかったらしい。
土も。
話も。
そして、一日も。
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